馬油を使った打撲の治療

今日は、我々のやっている打撲の治療法を話すことにする。
以前にも一般的な常識治療とは違った治療として「湿潤治療」について書いたが、今回は、「打撲」についてである。

「時代が変われば変わるものだということ、みんな考えているんだということを偉そうにも言いたいのだ!」

というのは、私がACMilanで働いているので、ACMilanではどんな練習をしているのか、どんな治療をしているのかとよく聞かれる。
そして、私は、「日本と変わらない練習メニューだし、治療はむしろ日本の方が進んでいるよ」と答えている。
しかし、異なる点は、前回の「closed kinetic training」で書いたように他人が何をやっているかを探すのではなく、どうすれば自分たちが勝てるか?どうすれば、選手が早く復帰するか、そして強くなるかを探しているのである。やっていることは、日本とあまり変わらないし、むしろ日本の方が進んでいる点も多い。しかし、彼らは真似をしていない。
真似ばかりしていては、世界のトップレベルに近づけてもトップにまずなれないであろう。ということである。


我々日本の歴史には、江戸時代の鎖国という素晴らしい時代があった。なぜなら 鎖国していたから真似することが出来ず、自分たちで考え、発明し、すばらしい物を作り上げたのだ。これが本当の日本人であると思う。


さて本題に入ることにする。

我々は、スポーツ医学の「いろは」としてA.B.C(エービーシー)とR.I.C.E(ライス)という言葉を勉強する。前者は救急蘇生法の際の気道確保、人口呼吸、心臓マッサージであり、
後者は、怪我の際の応急処置の際の安静、冷却、圧迫、挙上である。

打撲は、この応急処置の代表的な適応症である。
したがってアスレティックトレーナーの試験や、学校の保健のテストでは、打撲の際の応急処置は、R.I.C.E(ライス)と書かないと、まず、落第となるだろう。

我々は、いろいろ議論して、試して、そして現在は、筋肉の打撲の際にR.I.C.E処置は、行わないようになった。

これには、物語になるぐらいいろいろな出来事があった。
何しろ、先発メンバーの年収が手取りで5億円以上の選手が年間30~40試合をこなすわけだが、その内の1試合でも出来ないならば、なんと1000万円の以上の損失となることになる。
ましてやその選手が医療スタッフの手落ち つまり、スポーツ医療の基本である応急処置R.I.C.E(ライス)を行わなっかたために、試合に出れないことにでもなれば、医療スタッフの責任はかなり重くなる。
そんな中で試行錯誤して確立した処置である。

その手順は、次のようである。
まず、選手が、打撲した場所を確認する。(関節なのか筋肉なのかを調べる)もし、関節ならば、そのままR.I.C.E(ライス)の処置を行うことになる。
筋肉の場合は、続いてその程度を調べる。(重傷で受傷箇所を動かせない場合、明らかに陥凹がある場合、腫れが酷い場合は、R.I.C.E処置を行うが、重傷でない場合(経験からその程度を言っているのではっきりした指標を言えなくて御免なさい)は、R.I.C.E(ライス)を行わない。

1.NO Rest(安静にせず動かす)
2.NO ICE(冷やさず、温めず)、
3.COMPRESSION(圧迫は治療最終時に腫れていたら圧迫固定することもあるがないことの方が多い)
4.ELEVATION(血流、リンパの還流のために挙上してマッサージ)である。

具体的に例を挙げて見てみよう。
例えば、大腿部の中央外側に相手選手の膝が入った場合(俗に言うチャーリーホースである)を想定してみよう。

1.選手は、試合を続行出来たかどうか(出来れば、重傷でないのでこの治療法で進める)
2.徒手検査で膝を自動、他動的に完全屈曲出来るか(痛みを伴っても良く、それが出来れば、重傷ではない)
3.受傷後すぐに腫れが出現したか(腫脹していれば重症の可能性あり。)

以上を観察し、この治療法が適用かどうか決定する。

治療法は、
1.選手を背臥位にし、受傷下肢を挙上させる。
2.低周波、または、微弱電流等をかけ、受傷した部分の筋肉を他動的に動かす。
(その間、他動的に膝の屈伸運動を可動域すべてに亘ってゆっくりと動かす。)
3.ドレッシングマッサージ
(馬油と消炎鎮痛剤等を混ぜて痛みの加減に注意して心臓に向けて(リンパに沿って)やさしくマッサージする。)
4.冷水プールで 膝の屈伸運動を自動的にさせる。(行わない場合あり)
4.最後に熱なし、腫れなしならば、KINESIOテープを貼り、腫れている場合、消炎鎮痛外用薬に馬油を混ぜてパックを貼り、その上から スポンジで圧迫し、テープ固定する。

以上のような感じである。

考え方は、打撲によって出血した血液、炎症反応により起こったリンパ液等の還元を速やかに行い、血液の凝固を作らないこと、そして、リンパ液の流れる道を作ることを重視している。
冷却すると、出血した血液は、そこに留まり、硬結化し、後でこの硬結を取り除くのに苦労する。例えば、試合中に 打撲を受けて試合を続行し、試合後にR.I.C.E(ライス)処置を行ったのにも関わらず、翌日になって動けないことがある。

また、試合の前半の始じまってすぐに打撲し、試合を続行し、ハーフタイムで処置して、グランドに出ようとしたら脚に力が入らず、動けず、急遽、交代などということを経験したことはないだろうか。
こんなとき、この処置をしていれば、どうだろうか。少なくとも冷やしたら そこで終わりとなってしまうことは確かだろう。

皆さんも疑問に思ったら まず考えて、試してみてください。理論は、学者さんが後から考えてくれるから大丈夫!

そういえば 20年前に トレーニングジャーナルという雑誌の初刊のころ、東海大学の先生だと思ったが、冷却してはダメだという論文を載せていたことを今でも覚えている。たしか アイスホッケーの表紙だったと思う。

こういう先生もいるのだから 日本の捨てたもんじゃない!!!



PHOTO:宿泊先ホテルでの治療風景

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