日本のプロスポーツ界における医療システムの未熟さ(1)


「はり治療が原因か=右肩痛の沢村、巨人が謝罪-プロ野球」(時事通信)

「巨人沢村、球団トレーナー施術ミスで神経まひ可能性」(日刊スポーツ)

我々のようなメディカルトレーナーと称する職業人にとっては大変興味のあるそして他人事ではない事が起こった。

私は、鍼、灸、マッサージ師、柔整師、AT(日体協)の資格を数十年前に取得し、30年以上もの間、自称「メディカルトレーナー」として仕事をしている。
1999年にイタリアのミラノに縁あってそれから2017年まで ACミランで働き、この8月から選手と個人契約し、パーソナルトレーナーとしてミラノに在住している。そして千葉市の鍋島整形外科に在籍し、ミラノと千葉を往復し、私の経験を伝承しようと活動している。

 ところで、今回の件で、多くの専門家の意見が、FBBLOGで記さている。
 経験にしか頼っていない私が書くようなことは何もない。
 しかし、海外のクラブに所属していると別の観点からこの件を見ることができる。

それは、プロクラブチームの医療システムである。

 ACミランをはじめ、世界のそこそこのクラブには、メディカルグループがあり、その責任者がきちんと存在する。
 メディカルにおける責任者がその責任においてすべてに対応する。一般の方からすれば、こんなことは当たり前と思うかもしれないが、J1のクラブでも未だにチームドクターは存在するものの医師としてその責任は取らせるが、報酬、発言力、地位は、お客さんとしか置かれていないのが現状である。今回は、それが表れた1例のように思われる。

 各クラブが医療責任者にはなれないトレーナーを事実上の責任者に置き、お客さんとして医師を置くのである。

どうして専従の医師を置けないのだろうか? 決してお金がないからではない。クラブ関係者に意識が足りないからである。それは、クラブの社長、GMに問題があり、そんな環境で選手にプレーさせる代理人に問題があるように思う。
医療は神聖であると勘違いしているのだろうか。Jリーグ発足から全く進歩していない。野球界もたぶんそうなのだろう。もしかしたら最近、強くなっている球団は、アメリカ帰りの治療家が働いているのでシステムが確立されているのかもしれない。

以前、ミランで働いているときにこんなことがあった。

若い選手の代理人から医療の責任者であるドクターに電話があった。「この選手が10日間も腰が痛いと言っているの何も対応していないではないか。何をやっているんだ君たちは?」とクレームがあり、翌日の医療グループのミーティングでその選手の対応がどうなっているのか聞かれたことがある。
 選手はのほほんと練習をやり、練習が終わればすぐに帰ってしまうのに代理人が選手に治療をしっかりしろというのである。私は代理人の過剰な反応と思ったが、こんな事が大なり小なりちょくちょくあった。

また、クラブの医療責任者がクラブにおいて確固たるポジションになければ、監督の言うがままに選手を試合に使い、その選手の選手生命を縮めてしまい、クラブに大きな損失を与えてしまう事も起こりうるのである。監督も勝つために必死なのだ。

だから医療責任者のドクターは、お客さんというポジションでは全くできない仕事であるはずだ。

 クラブに専従だからこそ選手のため、クラブのために責任ある判断ができるのである。

例えば、もっと分かりやすい例で説明すると、ボクシングの試合で負傷した選手をどう判断するかは、会場ドクターと選手専属のドクターでは、判断は違ってくるはずだ。
選手の将来のためにドクターストップと判断する方が良い場合もあれば、その逆に、これくらいの怪我ならひどいようだが問題ないから試合を続行させるべきだと判断する場合もある。
そこには、ドクターとしてどこに所属し、何に対して責任があるかが明確であるからだ。
 たかが1500万円~2000万円のお金が惜しいためにドクターを専属にしていないとは思えない。クラブの幹部の意識の問題である。責任者のドクターの元にトレーナー、栄養士、そして、フィジカルコーチが従い、グループとして機能するのだ。
 唯一ドクターと対等なのが監督である。しかし、対等であるが故、医療に関してはドクターを尊重するのである。

もし、こんな構図が巨人軍にできていれば、このようなことは起こらなかったように思うし、これからも起こらないと思うのだがいかがだろうか。


私から言わせると神経麻痺で良かった。これが生死に関係することであったら、起きてからでは取り返しがつかないことである。

私の意見がすべてではないだろうが、プロスポーツくらい医療システムを確立してほしい。










コメント

  1. 確かに仰るとおり専属Drを持つのが一番ですが、今の日本でJクラブ(プロ野球団)の専属医師になろうという医師がどれだけ居るのか疑問です。更にスポーツを理解しかつ腕の良い医師となると極めて困難なミッションと言えるのではないでしょうか?

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