奥深さ


私は、サッカー以外のスポーツに携わったことが少ない。鍋島整形外科にいたころ川鉄千葉の野球の選手を診させてもらっていた時がある。当時、大人のスポーツ選手を触ることは少なく、もっぱら高校生が主体だったので、週一回程のマッサージは、私にとって凄い刺激となった。
そんな時、野球の奥深さを知った。

マッサージを終えて、親しくなった選手の部屋でプロ野球の試合を見ていた時のことである。その友人が、言った。
「遠藤君、よく見てろ!今、ピッチャーは、続けて2球を外角に投げたけど、バッターは、全く動かなかった、どういうことか分かるかい?」
と聞いてきた。私には、その意味は、全く分からなかった。
「この2球に対してバッターは、内角に絞っていたから動けなかったんだ。」
つづけて
「今度はどこに来ると思う? バッターは、このフォームからするともう一度内角に来ると読んでいる。ほらさっきと同じように身体が開いているだろう。」
そこで、ピッチャーは、一塁にけん制球を投げたのである。
「遠藤君、ピッチャーは、ちょっと迷っているよ!」だから一呼吸入れたんだ。」
そして、ピッチャーは、もう一度外角に投げて見送りの三振だった。
(内容をはっきり覚えていないのでちょっと創作しました)
その時、野球もここまで分かれば、さぞかし楽しいだろうなーと思ったことを20年以上も前なのに憶えている。その時は、それに本当に感動したのだろうと思う。

そして、こちらイタリアに来てサッカーにおいてもいくつかこういうことがあったので、また、すごく感動した。
私は、ホームのサンシーロスタディアムでの試合中の更衣室で、ハーフタイムの準備をしながら生放送の試合を見ていた。そこには、怪我のためメンバーに入らなかったコスタクルタがいて 一人ことを言ったのである。
BEPPE選手(ディフェンスの選手)のプレーに対して、
「ここでちょっと相手を押してやればいいのに!」(相手の体勢を崩せという意味である)
そして、BEPPE選手は、その後 スライディングをして相手を倒し、反則でイエローカードをもらったのである。
「あそこで、相手の体勢を崩させておけば、相手のボールタッチが乱れ、その後、反則せずに簡単にボールを奪えたのに。俺だったら、絶対にあそこで腰をポンっと軽く押すけどなー。」
とコスタクルタ選手がなにげなく言ったのである。
私は、プロ選手の駆け引きとは、こういうものかと思い、自分の現役時代にいかに頭を使わずいたかと思ったのである。
私が、こちらに来て世界の一流選手の話を聞いているのは、実に楽しい。
以前に、ヴァレージというミランのセンターバックの選手がいたが、彼が、一時期2ndチームの監督をしていた時がある。
私は、トレーナーとしてベンチに入ったことがあるが、試合を見るより、彼を見ていた方がよっぽど楽しかった。
彼は、ひとり言の様に「こうだ ああだ」と試合中に言っているのであるが、それが、先を見通したことばかりで、その予想が、数秒後に次々と実際に起こっていくのである。
例えば、
中盤の選手が、簡単なミス(私から見ればであるが)したら、急に怒り出し、なんてことをするんだ!もう駄目だ!と 後ろを向いてしまうのである。
そうすると その数秒後には、相手の決定的な得点チャンスとなってしまうのである。失点してしまうと、あの時、あそこであの選手がミスし、そのミスをカバーできない仲間の選手は、ポジションが全然だめ、そして、もう一人の選手は、それをまた、全然察知できないという具合にそのミスからのストリーを説明するのである。
これは、凄いと思った。

スポーツにはそれぞれ奥があり、極めている人と話をすることは、とてもおもしろい。
そして、こういう人になるのは、勉強してなれるものではないだろう。感性というかセンスである。
私は、楽天の野村監督の本を読むのが好きである。




Photo;ホームのサンシーロスタディアムのACミラン更衣室

コメント

  1. 私も野球少年だった従兄弟の家で「ドカベン」のコミックを読ませてもらった時に、里中君とドカベンのやり取りや、バッターの心理状況に「こんな深く相手の手を読みあっていたのか・・・」と深い感銘を受け、それが試合を見ながら分かったら、もっと面白いんだろうなぁ、と思ったのを思い出しました。
    ビリーさんのお話も非常に興味深かったです。パスやボールコントロール以前に色々あるんですね~ やはりプロの世界は深いです。毎度勉強になります。
    話が変わりまして、現在、足の治療をしている友人がおり、その人が通っている病院の先生が遠藤さん繋がりでカラーゼにミラノに来て治療してくれと依頼された、という話を先程聞きました。世の中、狭いというか、繋がるものですね!

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  2. tomoさまはトレーナー界でこのような奥深さを磨いていらっしゃるのですね。

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